先日、ウィルダー株式会社が立ち上げたコミュニティ「MUSUBI〜地方創生 FDE育成コミュニティ〜」の第1回LT会「顧客現場とDevOpsをむすぶAI活用LT会 @新潟」を開催しました。
エンジニアの方からビジネスパーソン・AI活用に関心のある方まで、さまざまなバックグラウンドを持つ方にお集まりいただき、「AIを使う・使わない」という日常的な話題から「地方の課題をどう解決するか」「これからのエンジニアのあり方とは」という大きなテーマまで、縦横無尽に議論が広がった会となりました。
参加いただいた皆さん、本当にありがとうございました。このブログでは、当日の雰囲気と主なトピックを振り返ります。
「MUSUBI」とは?——コミュニティ立ち上げの背景と想い

「MUSUBI〜地方創生 FDE育成コミュニティ〜」は、ウィルダー株式会社が中心となって立ち上げた、地方のエンジニアと首都圏のエンジニアの賃金・情報の格差撤廃を目指すコミュニティです。
立ち上げにあたって、私たちが強く感じていた課題は次の3つです。
- 地方と首都圏の賃金・デジタル格差が依然として大きく、優秀な人材が地元を離れてしまう
- 地方の中小企業には案件化できる課題がたくさんあるのに、現場に深く入り込んで伴走できる人材が圧倒的に少ない
- エンジニアになりたい人・地方で活躍したい人はいるのに、仕事・案件との結びつきが弱く、経験を積む機会が生まれにくい
これらを解決するために、MUSUBIが目指しているのはFDE(Forward Deployed Engineer/地域密着型のDX推進エンジニア)の育成です。エンドユーザーの課題に深く入り込み、コンサルティングから実装まで展開できる人材を、地方に根づいた形で育てていく。そのための場としてこのコミュニティを立ち上げました。
具体的には、地方各都市でハッカソン・アイデアソンを行い案件を創出し、その運用保守や情報化構想立案の支援を通じて、地方に居ながら幅広い業務知識と所得アップが目指せる環境を構築していく計画です。エンジニアだけでなくAI・DXに興味があるビジネスパーソンも巻き込み、地域全体でプロジェクトを回していく文化をつくっていきます。
今回の新潟開催は、その第一歩。まずは新潟のエンジニア・ビジネスパーソンの皆さんと顔を合わせ、お互いを知るところから始めました。
イベントの概要

今回のイベントは「顧客現場とDevOpsをむすぶAI活用LT会 @新潟 ——エンジニアの在り方から問われる激動の時代を生き抜くために」というタイトルで開催しました。
構成はシンプルで、前半1時間をLT(ライトニングトーク)大会、後半1時間を懇親会という2部構成です。LTの内容はAIにまつわることなら何でもOK。自社の事例紹介・Claude Codeの活用術・AIアプリ開発の近況・現場の成功談や失敗談など、自由なテーマで持ち寄っていただきました。
「テーマを絞りすぎず、参加者同士の対話から自然と議論を深めていく」というスタイルを大切にしており、発表と発表の間にも活発な質問やコメントが飛び交う、賑やかな雰囲気の会となりました。
トピック① エンジニアはなぜ「コーディングが好き」なのか?
今回の議論の中でも特に盛り上がったのが、「コーディングへのこだわり」についての話題です。
アメリカでコンピューターサイエンスを学んだ主催のウィルダー株式会社 代表の織方から「コーディングってただの手段では?本当のエンジニアリングは設計の部分じゃないか。コーディングがなくなる方が楽だと思うんですが、なぜあんなに好きな人が多いんでしょう」という問いが投げかけられました。
するとすぐに「それはわかる!」という声と「いや、自分はコーディングが好きなんです」という声が入り混じり、面白い対話が生まれました。
コーディング愛を語る参加者からは「自分で書いたコードがビルドを通ったとき、デプロイが正常に終わったとき——あの瞬間の達成感がやめられない」「パフォーマンスのボトルネックを見つけて直したら、サービスが落ちなくなってレスポンスも速くなった。『俺ってすごいな』ってなる(笑)」という声が。一方で「お客様のための仕事なら、自分より速くてきれいなAIに任せた方がいい。ただ、個人プロジェクトではあえてAIのエージェントを使わないと決めている」という使い分けの話も出ました。
プロとしての合理的な判断と、エンジニアとしての個人的な楽しみ——その両方を大切にしているリアルな実態が共有され、「エンジニアにとってコーディングは手段でもあり、趣味でもある」という結論に自然と落ち着いていきました。
トピック② AIの出力を「鵜呑み」にしてしまう問題
「AIの出力に対してどう向き合うか」という話題も、参加者の関心を強く引きました。
「AIに適切な権限を与えつつ、止めるべきところは人間が止める。使い分けが大事」という意見が出る一方で、「でも、確認作業を人間がしないといけないのに、脳死でAIに任せる人がどんどん出てくる。それをどう制御するかが本当に難しい」という指摘が続きました。
医療現場の事例として「自分はクローズドな環境で使っているから問題ないけど、それを部下にやらせたとき、ちゃんと確認せずにAIの出力をそのまま使ってしまう人が出てくるのでは?」という話が紹介されると、会場は「あー、あるある」という雰囲気に。
「結局、AIを使いこなすスキルよりも、AIの出力を疑える思考力・判断力の方が重要になってきている」という言葉が印象的でした。技術が進化するほど、使う人間側のリテラシーと責任が問われる時代になっているということを、参加者全員が肌で感じた議論でした。
トピック③ 上流工程へのAI活用——スキルスで設計思想をチームに浸透させる

参加者の一人が実践している「上流工程へのAI活用」の取り組みが紹介され、特に大きな関心を集めました。
要件定義・リスク分析・見積もり・設計レビューといった上流工程は、日本ではIPA・ISO・野村総研・三菱総研・NECなど大手シンクタンクや標準機構が豊富なドキュメントを公開しています。それらをAIに読み込ませて「スキルス(プロジェクト固有の知識ベース)」を作成し、Claudeなどのエージェントに展開することで、設計思想をチーム全員に自動で浸透させるという取り組みです。
具体的には、リスクのマトリックス評価・見積もりの手法・設計原則などをまとめたスキルスを開発チーム全員のエージェントに自動同期させることで、「自分の考え方がチーム全体に行き渡る」という感覚が生まれてきているといいます。
「リスクを定量的に評価できるようになったことで、お客様と握るべきポイントが可視化された」「見積もりの根拠が明確になり、後からのズレが減った」という実体験が共有されると、「自分も上流工程にAIを使いたいと思っていたが、こういうやり方があるのか」という声が多く上がりました。
また、ヒアリングの場でAIを使いながらリアルタイムにビジュアル化し、「こういう理解で合っていますか?」とクライアントに確認しながら対話を進める手法や、議事録をAIに読み込ませながらステップを分けて改善を繰り返すアプローチも紹介されました。「AIと一緒に考える」というスタイルが、上流工程の質と速度を同時に高めているという実感が伝わってきました。
「上流工程こそ、AIが最も価値を発揮できる領域かもしれない」——そんな認識が参加者の間で共有された時間でした。
トピック④ 「FDE」という新しい働き方と地方創生の可能性
後半は「これからのエンジニア・DX人材のあり方」へと話題が広がりました。MUSUBIが掲げる「FDE(Forward Deployed Engineer)」という概念についての議論です。
「FDEって結局、1人で全部やる何でも屋さんのこと?」という素朴な疑問が出たところから、海外の事例が紹介されました。OpenAIとジョン・ディア(農機具大手)の協業事例では、「FDE的な人材が1人クライアントに就いて課題をヒアリング・コンサルティングを行い、実際の実装は裏のチームが担う」というモデルが採用されており、1人で抱え込む「何でも屋」とは本質的に異なるものでした。
「コーディングから離れてソリューション提供に集中することで、1人で2〜3社を並行して担当できるようになる」「上流工程のコミュニケーションに特化することで、効率よく価値を届けられるようになる」——こうした考え方は、地方でFDE人材が持続可能に働くためのヒントとして、参加者の共感を呼んでいました。
また「地方の中小企業は3,000〜5,000万円規模の予算を持っていても、地元業者だけでは対応しきれず大手に発注すると8割が東京に流れてしまう」という現場の実態も共有されました。地場に根ざしたエンジニア・DX人材がチームで動ける体制ができれば、地方の課題解決と地域経済の循環を同時に実現できる——そんな可能性が、参加者全員のイメージの中で少しずつ形になっていきました。
さらに「日本では、コーディングが得意でも人前で話したり提案したりすることが苦手なエンジニアが多い。その部分を育てられる場が地方にはほとんどない」という指摘も出ました。MUSUBIが目指すのは、まさにその「技術力×問題発見力×コミュニケーション力」を掛け合わせた人材の育成です。コーディングだけでなく、クライアントの前に立って課題を整理し、チームを動かせる——そんなエンジニアが地方から生まれれば、産業の形が変わると信じています。
参加者の声——新潟のAI会社として感じたこと

当日は、新潟でAIの導入支援・経営コンサルを行っている企業の方にもご参加いただきました。「AIで業務効率化した分を営業人材の増員や売上成長に転換する」「M&Aや融資につなげて会社規模を大きくする」という、AIを経営戦略の手段として位置づけた総合コンサルを手がけている方です。
「今日の話はエンジニア寄りで、リポジトリとかスキルスとか、正直1ミリも分からない部分もありました(笑)。でも、コンサルとして必要な考え方が随所に詰まっていて、非常に参考になりました。地方の中小企業向けに経営課題とAI活用を結びつける仕事をしていますが、今回のようなFDE的な人材が新潟にはほぼいない。そういった人材をどう育てるか、一緒に考えていきたいです。」
また、BPO事業を展開している参加者からは「業務の棚卸しをして属人化を可視化するところまではできる。でも、そこにAI・システムをどう組み込むかという視点を持った人材がいない。今日のような場でそういう人たちとつながれることがありがたい」というコメントもいただきました。
エンジニア・コンサルタント・ビジネスパーソンがフラットに話せる場の価値を、改めて実感した瞬間でした。
「MUSUBI」が大切にしていること——「過程」を共有する文化

MUSUBIの勉強会が他のIT勉強会と少し違うのが、「過程を共有する」ことへのこだわりです。
一般的な勉強会では、きれいにまとめられた「結果」や「成功事例」が発表されることが多いです。でも実際の現場では、誰もがうまくいかない時期を経験しています。試行錯誤した跡、詰まったポイント、「なんでこうなるんだ」と悩んだ経験——そういう「途中のリアル」こそが、参加者にとって最も学びになるはずだと考えています。
「他の人がどこで詰まって、どうやって解決したか」を見ることで、自分では気づけなかった視点が生まれます。うまくいかなかった場面でも、その場でアドバイスや意見交換が生まれる。参加者が増えれば増えるほど、この「掛け算的な学び」が積み重なっていきます。
発表することに慣れていない方でも「ライトニングトーク」という10分という短い形式で、ハードルを下げて参加できます。人前で話すのが苦手だという方も、まずここから始めてみてください。話すことで自分の整理になるし、聞いてもらえることで次のアクションが生まれる——そんな体験を、MUSUBIではたくさん作っていきたいと思っています。
ご登壇・ご協力いただいた皆さん
今回のLT会を盛り上げてくださった登壇者・会場提供者の皆さんをご紹介します。
渡邉 浩平さん|株式会社クラウドネイチャー 代表
SIerでソフトウェア開発の経験を積んだのち独立。スタートアップから大手企業まで数多くの開発現場でテックリードやPMとして活躍されてきました。現在はAIを活用したシステム開発・自社AIプロダクトの企画・開発・運営に加え、企業向けAI研修も手がけています。
朝妻 拓海さん|にいがたAIビジネス株式会社 取締役COO(会場提供)
中小企業向けのAI導入支援を行い、点の課題解決から面の全社展開まで網羅。人材価値向上と企業価値向上を全方位から支援されています。新潟でAIを実装し続けているキーパーソンのお一人です。
武井祐太|株式会社coco brothers(共同開催)
今回共同開催の武井は、新規事業や業務改善に特化した支援を行っています。即動かせるチームを抱えているため、プロジェクト始動時のチームビルディングから業務フローの整理・マニュアル化まで伴走支援が可能。さらに強力な「地場のつながり」を活かしたマッチングや、事業拡大に不可欠な資金調達のサポートまで幅広く対応されています。地方での新規事業展開を考えている方はぜひお声がけください!
ご登壇・ご協力いただいた皆さんのおかげで、非常に濃い時間になりました。本当にありがとうございました!
次回のMUSUBIについて
第1回を終えて、「この場にもっと多様な人が来てくれたら」という実感が強くなっています。エンジニアだけでなく、ビジネスパーソン・経営者・フリーランス・学生——立場を超えた人たちが混ざるほど、MUSUBIの価値は高まります。
次回以降は、実際の地元企業の方にお越しいただいての課題ヒアリング・ハッカソン・アイデアソン形式でのPoC提案なども企画しています。「AIを使って何かやってみたい」「地方で仕事を作りたい」「エンジニアとして次のステップに進みたい」——そんな思いを持つ方のご参加をお待ちしています。
参加は無料で、お名前はハンドルネームでOK。LT参加枠では自社の事例紹介や「触ってみた」系の話題も大歓迎です。今後のイベント情報はこちらのページにて告知しますので、ぜひページをフォローしてください。
そして——「エンジニアではないけど気になっている」という方こそ、ぜひ来てください。あなたの視点が、このコミュニティをもっと面白くしてくれると信じています。
また新潟でお会いしましょう!
主催:ウィルダー株式会社/ コミュニティ「MUSUBI〜地方創生 FDE育成コミュニティ〜」
共催:にいがたAIビジネス株式会社
ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました!

