ベネッセホールディングスのAI活用は、グループ社員約1万5000人が使う社内AIチャット「Benesse Chat」を起点に、教育サービス、学校現場の支援、コンタクトセンター、Webサイト制作まで、生成AIで業務と顧客体験の両方を変革する取り組みです。
Webサイト制作ではコストを約4割削減して制作期間を8週間から3週間に短縮し、コンタクトセンターでは1件あたりの平均通話時間を1分短縮するなど、具体的な成果が次々と生まれています。
本記事では、ベネッセホールディングスのAI活用事例を領域ごとに整理し、その仕組みと成果、そして企業経営者が学べる教訓を徹底解説します。
- ベネッセホールディングスのAI活用とは?——「業務効率」と「顧客体験」を同時に高める
- 社内AIチャット「Benesse Chat」——グループ社員1万5000人が利用
- 子ども向け「自由研究おたすけAI」——3カ月でリリース、利用者の8割超が「役立った」
- 「未来の教室」プロジェクト——生成AIでテスト問題を作成・採点し教員の負担を軽減
- 「次世代型コンタクトセンタープロジェクト」——音声認識AIで年間200万件超の対応を効率化
- Webサイト制作・運用改革——コスト約4割削減、制作期間を8週間から3週間へ
- 学習サービスへの生成AI活用——「進研ゼミ」もAIで進化
- ベネッセホールディングスのAI活用事例まとめ表
- ベネッセホールディングスのAI活用から学ぶ3つの教訓
- よくある質問(FAQ)
- まとめ:ベネッセホールディングスのAI活用は「顧客体験と業務効率」の両立モデル
ベネッセホールディングスのAI活用とは?——「業務効率」と「顧客体験」を同時に高める

出典:https://unsplash.com/ja
ベネッセホールディングスのAI活用の目的は、生成AIを使って社内の業務効率を高めると同時に、子どもや保護者、学校、顧客への価値提供を向上させることです。「進研ゼミ」「こどもちゃれんじ」などの教育サービスで知られるベネッセグループは、生成AIが登場した早い段階から、社内利用と自社サービスへの組み込みを並行して進めてきました。
その推進役となっているのが、2021年春に社長直下の組織として設立されたDX推進組織「Digital Innovation Partners(DIP)」です。DIPが中心となって全社のデジタル活用を後押しし、2023年に生成AIが急速に普及すると、社内AIチャットの全社展開、子ども向けAIサービスのリリース、外部パートナーとの共同プロジェクトを矢継ぎ早に立ち上げました。
ベネッセのAI活用は4つの領域で進む
ベネッセホールディングスのAI活用は、大きく4つの領域に分けられます。第一は社員の業務を支える「社内AIチャット(Benesse Chat)」、第二は教員の負担を減らす「学校現場の支援(未来の教室)」、第三は顧客対応を進化させる「次世代型コンタクトセンター」、第四は制作の効率を高める「Webサイト制作・運用改革」です。さらに、「自由研究おたすけAI」や「進研ゼミ」の学習サービスなど、子どもたちに直接届くプロダクトにも生成AIが組み込まれています。
社内AIチャット「Benesse Chat」——グループ社員1万5000人が利用
ベネッセホールディングスのAI活用の起点となったのが、2023年4月にグループ全社へ展開された社内AIチャット「Benesse Chat」です。当初は「Benesse GPT」という名称で発表され、グループ社員約1万5000人が安全に生成AIを使える環境を整えました。
Benesse Chatは、Microsoftのクラウドサービス「Azure OpenAI Service」を通じてOpenAIの大規模言語モデルを利用する仕組みです。社外の一般向けサービスをそのまま使うのではなく、入力した情報がAIの学習などに二次利用されない社内専用の環境として構築されている点が特徴です。導入から約2カ月後の社内アンケートでは、利用者の4割が「ほぼ毎日使っている」、3割が週2〜3日、3割が週1回利用していると回答しており、短期間で業務に定着したことがわかります。
企画・契約書確認・メール作成などで活用
Benesse Chatは、さまざまな業務で活用されています。代表的なのは、企画のブレインストーミング、契約書面の抜け漏れや抜け穴のチェック、メールのひな型作成です。そのほか、議事録の要約、アンケート結果の分析、前任者が残したドキュメントからの情報検索、議論の前に中立的な意見を確認する使い方など、日常業務の幅広い場面で業務効率化に役立っています。
安全に使うためのルールづくり
全社展開にあたって、ベネッセはセキュリティ担当チームと協議し、機密情報や個人情報を入力しないといった利用ルールを定めました。教育サービスを通じて多くの個人情報を扱う企業だからこそ、「便利さ」と「安全性」を両立させる仕組みを最初から設計したことが、1万5000人規模での展開を可能にしたポイントです。
子ども向け「自由研究おたすけAI」——3カ月でリリース、利用者の8割超が「役立った」

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ベネッセは社内だけでなく、自社サービスにもいち早く生成AIを取り入れました。2023年7月には、小学生とその保護者向けに、OpenAIの「ChatGPT」を活用した「自由研究おたすけAI」をリリースしています。夏休みの自由研究のテーマ決めで、子どもが入力した内容に応じてAIがアドバイスを返すサービスです。
子ども向けのサービスでは、不適切な提案をしてしまうリスクや、子ども自身が考えるべき部分にAIが答えを出してしまうリスクがあります。ベネッセは企画部門と開発部門が毎日のようにミーティングを重ねて調整を繰り返し、約3カ月という短期間でリリースにこぎつけました。AIにキャラクター性を持たせて「一緒に考える対話相手」として設計した結果、利用者の8割を超える人が「自由研究に役立った」と回答しています。経営層が失敗のリスクも含めてプロジェクトにコミットし、チームが挑戦しやすい環境をつくったことも成功の要因とされています。
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「未来の教室」プロジェクト——生成AIでテスト問題を作成・採点し教員の負担を軽減

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ベネッセは、学校現場の教員の働き方改革にも生成AIを活用しています。2023年12月には、経済産業省の「未来の教室」事業のうち、生成AIを用いた教育サービスの検証にかかる実証事業に参画することを発表しました。首都圏の小学校を対象に、2023年11月から2024年2月にかけて実施されたものです。
この実証で生成AIが担ったのは、「小テスト」や「単元末テスト」の素案作成と採点です。学習内容や授業教材、指導計画をもとに、生成AIが設問と解答の素案を自動で作成します。教員はその素案を微修正し、内容が正しいかをファクトチェックするだけで済むため、テスト作成と採点にかかる時間の短縮が期待されています。
AIが「たたき台」、人が「仕上げ」を担う
このプロジェクトのポイントは、AIにすべてを任せるのではなく、AIがたたき台をつくり、教員が最終的な判断と仕上げを担うという役割分担にあります。教員の長時間労働が社会課題となる中で、問題作成や採点といった定型的な作業をAIで効率化し、教員が子どもと向き合う時間を増やすことを目指しています。長年にわたって学校向けの教材やテストを手がけてきたベネッセならではのAI活用といえます。
「次世代型コンタクトセンタープロジェクト」——音声認識AIで年間200万件超の対応を効率化
ベネッセは、顧客対応の現場でもAI活用を進めています。ベネッセのコンタクトセンターには、年間200万件以上の問い合わせが寄せられます。ベネッセはコンタクトセンター運営会社のTMJ、音声AIを手がけるHmcommと共同で音声認識AIを活用した取り組みを進め、1件あたりの平均通話時間を1分短縮しました。この取り組みは「コンタクトセンター・アワード2023」のオペレーション部門で最優秀賞を受賞しています。
さらに2023年6月には、同じ3社で生成AIを活用した「次世代型コンタクトセンタープロジェクト」を開始しました。チャットやメールなど音声以外の窓口の対応範囲の拡大、音声botと生成AIによる一次対応、対応中のオペレーターへの回答支援などを通じて、AIと人が協力するハイブリッドな窓口運営への転換を目指しています。
メール回答の作成時間が15分から8分に
次世代型コンタクトセンタープロジェクトの実証では、具体的な成果も出ています。生成AIでメールの回答文を作成したところ、1件あたりの平均対応時間が15分から8分に短縮されました。音声botによる一次対応でも、回答精度は9割以上に達しています。顧客対応の効率化と、待ち時間の短縮による顧客体験の向上を同時に実現する取り組みとして注目されています。
Webサイト制作・運用改革——コスト約4割削減、制作期間を8週間から3週間へ

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ベネッセホールディングスは、Webサイトの制作・運用にも生成AIを導入し、大きな成果を上げています。2023年10月に発表された取り組みでは、デジタルビジネス運用支援のメンバーズ、UXデザインコンサルティングのビービットと協力し、「進研ゼミ 中学講座」のWebサイト制作の業務プロセスを抜本的に見直しました。
その結果、制作・運用にかかるコストを約4割削減し、制作期間を8週間から3週間へと半分以下に短縮しています。具体的には、Webサイト向けの説明文や言葉選びを生成AIで自動化して作業工数を減らしたほか、設計済みのデザインテンプレートを導入して専門知識がなくてもページを作れるようにしました。さらに、Excelで作成したワイヤーフレームからHTMLを起こす工程をなくし、ノーコードCMSでサイトを直接修正できる仕組みに切り替えています。
生成AIは「プロセス改革」と組み合わせて効果を発揮
このWeb制作改革の成功は、生成AIを単体で導入したのではなく、テンプレート化やノーコードツールの導入といった業務プロセスの見直しと組み合わせた点にあります。AIを既存の非効率な業務フローにそのまま乗せても、効果は限定的です。業務の流れそのものを見直し、その中でAIが最も力を発揮する工程に組み込むことで、コスト4割削減という大きな成果につながりました。
学習サービスへの生成AI活用——「進研ゼミ」もAIで進化
ベネッセホールディングスのAI活用は、主力の学習サービスにも広がっています。2025年2月には、生成AIを活用した対話型学習サービス「難関合格 進研ゼミ√Route 大学受験」の提供を開始しました。AIとの対話を通じて思考力を鍛える学習スタイルで、7教科24科目の志望大学別演習が学び放題となっています。
2026年3月には、「進研ゼミ 高校講座」が約10年ぶりにリニューアルされ、生成AIを本格的に活用した学習体験が導入されました。写真を撮って送るだけで疑問を解消できる「AI質問」、テスト範囲から最適な学習計画を立てる「AIテスパ機能」、約1600本の映像授業と膨大な出題パターンから問題を最適化する「AI問題演習」など、一人ひとりに合わせた学びをAIが支えています。
ベネッセホールディングスのAI活用事例まとめ表
ベネッセホールディングスの主なAI活用事例と成果を一覧表にまとめました。社内業務から学校支援、顧客対応、Web制作、学習サービスまで、幅広い領域で生成AIが活用されていることがわかります。
| 活用領域 | 主な取り組み | 成果・特徴 | 時期 |
|---|---|---|---|
| 社内業務 | 社内AIチャット「Benesse Chat」(旧Benesse GPT) | グループ社員約1万5000人が利用、4割がほぼ毎日使用 | 2023年4月 |
| 子ども向けサービス | 「自由研究おたすけAI」 | 約3カ月でリリース、利用者の8割超が「役立った」 | 2023年7月 |
| 学校支援 | 「未来の教室」実証事業(テスト素案作成・採点) | 教員のテスト作成・採点業務の負担軽減 | 2023年11月〜2024年2月 |
| コンタクトセンター(音声認識) | TMJ・Hmcommと音声認識AIを活用 | 平均通話時間を1分短縮、アワード最優秀賞 | 2023年 |
| コンタクトセンター(生成AI) | 次世代型コンタクトセンタープロジェクト | メール回答15分→8分、音声bot回答精度9割以上 | 2023年6月〜 |
| Webサイト制作 | メンバーズ・ビービットと制作・運用改革 | コスト約4割削減、制作期間8週間→3週間 | 2023年10月 |
| 学習サービス | 進研ゼミ√Route 大学受験・進研ゼミ高校講座 | AIとの対話型学習、AI質問・学習計画・問題最適化 | 2025年2月〜 |
ベネッセホールディングスのAI活用から学ぶ3つの教訓

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ベネッセホールディングスのAI活用から企業経営者が学べるポイントは、全社員が使える環境づくり、外部パートナーとの協創、AIと人の役割分担の3つです。業種や規模を問わず応用できる考え方として整理します。
教訓①:まず全社員が「安全に使える環境」を整える
ベネッセは生成AIが普及し始めた2023年4月の段階で、グループ社員1万5000人が安全に使える社内AIチャットを整備しました。社員が個人で外部サービスを使うと情報漏えいのリスクがありますが、社内専用の環境と利用ルールを用意すれば、安心してAIを試せます。全社員がAIに触れる機会をつくることが、その後の多様なAI活用の土台になりました。
教訓②:専門性を持つパートナーと組んでスピードを出す
ベネッセは、コンタクトセンターではTMJ・Hmcomm、Web制作ではメンバーズ・ビービットと、それぞれの分野の専門企業と組んでAI活用を進めてきました。すべてを自社だけで開発しようとせず、外部の専門性を取り入れることで、短期間で実際の成果につなげています。自社の強みである業務知識と、パートナーの技術力を組み合わせることが成功の近道です。
教訓③:AIは「たたき台」、最終判断は人が担う
未来の教室ではAIがテストの素案をつくり、教員が修正とファクトチェックを担います。コンタクトセンターでも、AIと人が協力するハイブリッドな運営を目指しています。AIに任せる部分と人が担う部分を明確に分けることで、品質と安全性を保ちながら効率化できます。特に子どもや顧客に直接届くサービスでは、この役割分担が信頼の土台になります。
よくある質問(FAQ)
ベネッセの社内AIチャット「Benesse Chat」とは何ですか?
Benesse Chatは、ベネッセグループが2023年4月に全社展開した社内向けのAIチャットです。当初は「Benesse GPT」という名称で発表され、グループ社員約1万5000人が利用できます。Azure OpenAI Serviceを通じて安全に生成AIを使える環境として構築され、企画のアイデア出し、契約書の確認、メール作成、議事録の要約などに活用されています。
「未来の教室」プロジェクトで生成AIは何に使われましたか?
ベネッセが参画した経済産業省「未来の教室」の実証事業では、生成AIが小テストや単元末テストの素案作成と採点に使われました。学習内容や授業教材、指導計画をもとに生成AIが設問と解答の素案を作成し、教員が微修正とファクトチェックを行うことで、教員の業務負担の軽減を目指しています。
ベネッセの「次世代型コンタクトセンタープロジェクト」とは何ですか?
次世代型コンタクトセンタープロジェクトは、ベネッセがTMJ、Hmcommと共同で2023年6月に開始した、生成AIを活用して顧客対応を効率化・高度化する取り組みです。音声認識AIの活用ではすでに1件あたりの平均通話時間を1分短縮しており、生成AIによるメール回答作成では平均対応時間が15分から8分に短縮されました。
ベネッセは生成AIでWebサイト制作をどのように効率化しましたか?
ベネッセは、メンバーズ、ビービットと協力して「進研ゼミ 中学講座」のWebサイト制作・運用のプロセスを見直しました。説明文の作成を生成AIで自動化し、デザインテンプレートやノーコードCMSを導入した結果、コストを約4割削減し、制作期間を8週間から3週間に短縮しました。
ベネッセの子ども向けサービスにも生成AIは使われていますか?
はい。2023年7月には小学生向けの「自由研究おたすけAI」をリリースし、利用者の8割を超える人が自由研究に役立ったと回答しました。2025年2月には生成AIとの対話型学習「進研ゼミ√Route 大学受験」、2026年3月には生成AIを活用した「進研ゼミ 高校講座」のリニューアルも行われています。
ベネッセのAI活用から他の企業が学べることは何ですか?
ベネッセのAI活用から学べるポイントは主に3つです。全社員が安全に生成AIを使える環境を最初に整えること、専門性を持つ外部パートナーと組んで短期間で成果を出すこと、そしてAIにたたき台をつくらせて最終判断は人が担う役割分担を明確にすることです。
まとめ:ベネッセホールディングスのAI活用は「顧客体験と業務効率」の両立モデル
ベネッセホールディングスのAI活用は、社員1万5000人が使う「Benesse Chat」で全社の土台をつくり、「未来の教室」での教員支援、次世代型コンタクトセンターでの顧客対応の高度化、Webサイト制作のコスト約4割削減、そして進研ゼミなどの学習サービスへの組み込みへと広がってきました。社内の業務効率化と、子どもや保護者、学校、顧客への価値提供を同時に高めている点が最大の特徴です。
その背景には、安全に使える環境を最初に整えたこと、専門性を持つパートナーと協創したこと、そしてAIと人の役割を明確に分けたことがあります。生成AIの導入を検討している企業経営者にとって、ベネッセの取り組みは「どこから始め、どう広げるか」を考えるうえで、非常に参考になる事例といえるでしょう。
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