ニチレイフーズのAI活用は、鶏肉原料の選別・異物検査という「品質」と、生産計画・要員計画の自動立案という「効率」の両面から、冷凍食品工場をAIで進化させる取り組みです。
日立製作所と共同開発したAIシステムでは、熟練者が担っていた計画立案の時間を従来の約10分の1に短縮し、近畿大学と開発したAI選別技術では夾雑物の除去率を約1.5倍、処理スピードを約4倍に高めました。
本記事では、ニチレイフーズのAI活用事例を時系列で整理し、具体的な仕組みと成果、そして食品メーカーをはじめとする製造業が学べる教訓を徹底解説します。
- ニチレイフーズのAI活用とは?——「品質」と「効率」を両立する工場DX
- AI原料選別技術——近畿大学と共同開発し除去率1.5倍・速度4倍
- 鶏肉の骨をAIで検出——リサイクル部位を唐揚げ用に活用
- 日立と協創した「最適生産・要員計画自動立案システム」——計画時間を10分の1に
- グループ会社にも横展開——ニチレイ・アイスは計画業務を約70%削減
- 分光カメラ×AIの異物検査——透明プラスチック片も検知
- スマートファクトリーとお客様対応へのAI・デジタル活用
- 食品業界におけるニチレイフーズのAI活用の意義
- ニチレイフーズのAI活用事例まとめ表
- ニチレイフーズのAI活用から学ぶ3つの教訓
- よくある質問(FAQ)
- まとめ:ニチレイフーズのAI活用は「現場の知恵」をAIで未来につなぐ
ニチレイフーズのAI活用とは?——「品質」と「効率」を両立する工場DX

出典:https://unsplash.com/ja
ニチレイフーズのAI活用の目的は、人手不足が深刻化する食品工場で、品質を落とさずに生産効率を高めることです。冷凍食品の製造現場では、原料の目視検査や、熟練者の経験に頼った生産計画づくりなど、人の目と勘に依存する業務が多く残っていました。ニチレイフーズはこうした業務にAIを導入し、属人化の解消と省人化、さらに食品ロス削減を同時に進めています。
同社のAI活用は大きく2つの領域に分けられます。一つは、鶏肉の骨・羽根・血合いや異物をAIで見つける「検査・選別」の領域、もう一つは、日々の生産量や人員配置をAIが組み立てる「計画」の領域です。どちらも、大学や日立製作所、ソニーセミコンダクタソリューションズなど外部パートナーとの協創で開発されている点が特徴です。
AI活用が求められた背景
食品工場でAI活用が求められる背景には、人手不足と熟練者の高齢化があります。原料の検査は集中力が必要な作業で、長時間続けると見落としのリスクが高まります。また、生産計画づくりは品目数・ライン数・人員の組み合わせが膨大で、長年の経験を持つ一部の担当者しか対応できない状態になりがちです。ニチレイフーズは、こうした「人にしかできない」とされてきた業務こそAIで支えるべき領域だと捉え、2016年頃から本格的な研究開発を進めてきました。
AI原料選別技術——近畿大学と共同開発し除去率1.5倍・速度4倍

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ニチレイフーズのAI活用の出発点となったのが、2018年2月に発表された近畿大学との共同開発による「AI原料選別技術」です。唐揚げなどに使う鶏肉原料から、食品工場で「3大夾雑物」と呼ばれる硬骨・羽根・血合いをAIで見つけ出す技術で、2016年に開発に着手しました。
仕組みは、原料を独自の照明・撮影技術で撮影して夾雑物を強調し、画像を濃淡ヒストグラムとニューラルネットワークで数値情報に変換したうえで、事前に大量に学習させたデータと照合して判別するというものです。この技術により、夾雑物の除去率は従来比で約1.5倍、処理スピードは約4倍に向上しました。2019年には国内工場への導入が始まっています。
「念のため廃棄」を減らし、食品ロスを削減
AI選別技術のもう一つの狙いは、食品ロスの削減です。人の目による検査では、判断に迷う原料を「念のため」廃棄せざるを得ない場面がありました。AIが瞬時に夾雑物の有無と位置を判定し、作業者がその部分だけをピンポイントで除去する仕組みにすることで、食べられる部分まで捨ててしまう無駄を減らしています。品質の向上と食品ロスの削減を同時に実現している点が、ニチレイフーズのAI活用の大きな特徴です。
鶏肉の骨をAIで検出——リサイクル部位を唐揚げ用に活用
ニチレイフーズは、鶏肉に残る骨をAIで検出する技術の開発も進めてきました。骨なしの鶏肉加工品では、骨の破片を作業者が目視で探して取り除く必要があり、確実に見つけるのが難しい工程でした。
この技術では、偏光フィルターを付けたカメラでコンベア上の鶏肉を撮影して骨を見えやすくし、学習済みのAIが画像とコンベアの位置情報から骨の有無と位置を特定します。そのうえで該当部分を除去する仕組みです。2021年には、従来は食用に回せずリサイクルしていた部位の約7割を唐揚げ用に活用できるようになったと報じられており、食品ロス削減に大きく貢献しています。
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日立と協創した「最適生産・要員計画自動立案システム」——計画時間を10分の1に

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ニチレイフーズのAI活用の中でも特に注目されたのが、日立製作所と協創した「最適生産・要員計画自動立案システム」です。2020年2月に発表され、2020年1月から国内4拠点の食品工場で順次稼働を始めました。生産計画と要員計画の立案時間は、従来の約10分の1に短縮されています。
食品工場の生産計画は、非常に複雑なパズルです。ニチレイフーズによると、80品目・7ラインの工場を想定した場合、組み合わせは約16兆通りにもなります。さらに、需要の変化、原料の入荷状況、従業員のスキルや勤務条件などを考慮しながら、「なるべく」「できるだけ」といった曖昧な条件も満たす必要があり、これまでは長年の経験を持つ熟練者にしか対応できない業務でした。
熟練者のノウハウをAIで再現する仕組み
このシステムには、日立の「Hitachi AI Technology/計画最適化サービス」が使われています。機械学習と数理最適化を組み合わせ、熟練者の計画パターンを数値化・重み付けして抽出し、組み合わせて解析することで、熟練者と同等の計画を自動で立案します。さらに、実際にその計画で生産や人員配置を行った結果や課題を学習させ、効率性と品質の両立を目指しています。
本格稼働の前には、2018年8月から1年間、事業所で試験導入を行い効果を検証しました。いきなり全工場に展開するのではなく、試験導入で精度と使い勝手を確かめてから広げる進め方は、AI導入を成功させるうえで参考になるポイントです。
熟練者以外でも計画を立てられる働き方へ
このシステムのもう一つの効果は、働き方の柔軟性です。ニチレイフーズの担当者は「熟練者以外の従業員でも使えるため、働き方をフレキシブルに組める」と述べています。特定の担当者に業務が集中する属人化が解消され、休暇の取得や配置転換もしやすくなりました。同社は国内11工場と海外工場への展開も計画しています。
グループ会社にも横展開——ニチレイ・アイスは計画業務を約70%削減

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ニチレイフーズのAI活用のノウハウは、グループ会社にも広がっています。製氷事業を展開するニチレイ・アイスでは、日立製作所との協創により、包装氷の生産・輸送・在庫計画の立案業務を自動化するAIシステムを開発・導入しました。2025年10月の発表によると、計画立案にかかる業務時間を約70%削減しています。
氷の需要は気温や天候に大きく左右されるため、生産・輸送・在庫のバランスを取る計画づくりは難易度が高い業務です。冷凍食品工場で培った計画自動化の知見を、性質の異なる事業にも応用できた点は、AI活用の「横展開」の成功例といえます。
分光カメラ×AIの異物検査——透明プラスチック片も検知
ニチレイフーズは2026年8月、船橋工場に分光カメラとAIを組み合わせた新しい異物検査装置を導入しました。従来のカラーカメラでは見分けにくかった、原材料と色や形が似た透明プラスチック片などを高精度に検知できる装置です。
この装置には、ソニーセミコンダクタソリューションズの短波長赤外(SWIR)対応の分光カメラと、市販のマルチバンドフィルターが使われており、装置の製造はシブヤ精機が担当しています。4種類の異なる波長帯から情報を取得し、流れてくる原材料を連続で検査しながら、AIが画像処理と判定を行います。
「人とAIの協働」による検査体制
この異物検査装置の狙いは、検査工程の自動化・省人化に加え、検査品質の均一化と従業員の負担軽減、目視による見落としリスクの低減です。ニチレイフーズは、AIで人を置き換えるのではなく、人とAIが協働する検査体制を強化するという考え方を示しています。AIが得意な「見つける」作業と、人が得意な「判断し対応する」作業を組み合わせることで、食の安全性をさらに高めています。
スマートファクトリーとお客様対応へのAI・デジタル活用

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ニチレイフーズは、個別のAI技術にとどまらず、工場全体をデジタルでつなぐスマートファクトリー化も進めています。2023年に稼働した最新工場「キューレイ」(福岡)では、センサーとカメラのデータをリアルタイムで管理し、「コックピット」と呼ぶ部屋で工場全体を監視しています。異常があればすぐに対応できるため、口頭報告によるタイムラグが解消され、食品ロス削減にもつながっています。
また、紙の帳票を電子化するデジタル帳票システムの導入により、帳票の作成・確認にかかる時間を年間300時間、紙の使用量を2.8万枚削減しました。電子化されたデータは生産部門のシステムと連携しており、将来のAI活用の基盤にもなっています。
お客様相談センターへのAIチャットボット導入
工場の外でもAI活用は進んでいます。ニチレイフーズは2021年10月、お客様相談センターにユーザーローカル社のAIチャットボットを導入しました。電話やメールに加えて、チャット形式で気軽に質問できる窓口を設けることで、利用者が自分で疑問を解決できるようにし、顧客満足度の向上を目指しています。
食品業界におけるニチレイフーズのAI活用の意義
ニチレイフーズのAI活用が食品業界で注目される理由は、AIを「実験」ではなく工場の日常業務として定着させている点にあります。食品製造は、原料が天然物で形や状態が一つひとつ異なり、さらに需要が季節や天候で大きく変動するため、工業製品の製造に比べて自動化が難しい分野とされてきました。
その中でニチレイフーズは、鶏肉という形も色もばらつきの大きい原料を相手に、AIで骨や羽根、血合いを見分ける技術を実用化しました。また、品目・ライン・人員の組み合わせが膨大な生産計画にもAIを導入し、熟練者でなくても計画を立てられる体制をつくっています。「人の目と経験が欠かせない」とされてきた食品工場の業務でもAIが十分に機能することを示した点で、業界全体にとって大きな意味を持つ事例です。
中小規模の食品メーカーにも応用できるポイント
ニチレイフーズのような大手企業でなくても、同じ考え方はAI活用に応用できます。まずは目視検査や計画づくりなど、特定の担当者に負担が集中している業務を洗い出すことが出発点です。次に、その業務の判断基準や過去の実績データを整理し、AIに学ばせられる状態にします。最初から大規模なシステムを目指すのではなく、一つのラインや一つの工程で試験導入し、効果を確かめてから広げていくことで、投資リスクを抑えながらAI活用を進めることができます。
ニチレイフーズのAI活用事例まとめ表
ニチレイフーズとグループ会社の主なAI活用事例と成果を一覧表にまとめました。検査・選別、計画、工場管理、顧客対応まで、幅広い領域でAIが活用されていることがわかります。
| 活用領域 | 主な取り組み | 成果・特徴 | 時期 |
|---|---|---|---|
| 原料選別 | 近畿大学と共同開発したAI原料選別技術(硬骨・羽根・血合い) | 除去率約1.5倍・処理速度約4倍 | 2018年発表/2019年導入 |
| 鶏肉の骨検出 | 偏光カメラ+AIで骨の有無と位置を特定 | リサイクル部位の約7割を唐揚げ用に活用 | 2021年 |
| 生産・要員計画 | 日立と協創した最適生産・要員計画自動立案システム | 立案時間を約10分の1に短縮、国内4拠点で稼働 | 2020年 |
| グループ会社(製氷) | ニチレイ・アイスの生産・輸送・在庫計画AI | 計画立案の業務時間を約70%削減 | 2025年 |
| 異物検査 | SWIR分光カメラ+AIの異物検査装置(船橋工場) | 透明プラスチック片など見分けにくい異物を検知 | 2026年 |
| スマートファクトリー | キューレイ(福岡)のコックピット監視・電子帳票 | 帳票業務を年間300時間、紙2.8万枚を削減 | 2023年〜 |
| お客様対応 | お客様相談センターのAIチャットボット | チャットでの自己解決を支援し顧客満足度向上 | 2021年 |
ニチレイフーズのAI活用から学ぶ3つの教訓

出典:https://unsplash.com/ja
ニチレイフーズのAI活用から他社が学べるポイントは、熟練者の暗黙知のAI化、品質とロス削減の同時達成、外部パートナーとの協創の3つです。食品メーカーに限らず、製造業全般に応用できる考え方として整理します。
教訓①:熟練者の「暗黙知」こそAIで形式知にする
ニチレイフーズは、熟練者にしかできないとされてきた生産計画づくりをAIで再現し、立案時間を約10分の1に短縮しました。属人化した業務は、担当者の退職や休暇で止まってしまうリスクを抱えています。熟練者の判断パターンをAIに学ばせて誰でも使える形にすることは、効率化だけでなく事業継続性の向上にもつながります。
教訓②:品質向上と食品ロス削減を同時に狙う
ニチレイフーズのAI検査は、異物を見逃さない「品質」と、食べられる部分を捨てない「ロス削減」を同時に実現しています。AI活用の目的を単一のコスト削減に絞らず、品質・環境・働き方など複数の価値に結びつけることで、社内の理解や投資判断も得やすくなります。
教訓③:自社だけで抱えず、外部の専門家と協創する
ニチレイフーズは、近畿大学、日立製作所、ソニーセミコンダクタソリューションズ、シブヤ精機など、それぞれの分野の専門家と組んでAI技術を開発してきました。さらに、試験導入で効果を検証してから本格展開し、グループ会社にも横展開しています。自社の現場の知見と外部の技術力を組み合わせ、小さく試して広げる進め方は、AI導入を成功させるための王道といえます。
よくある質問(FAQ)
ニチレイフーズはAIをどのような業務に活用していますか?
ニチレイフーズは、鶏肉原料の選別や骨の検出、異物検査といった「検査・選別」業務と、生産計画・要員計画の自動立案といった「計画」業務を中心にAIを活用しています。そのほか、スマートファクトリー化やお客様相談センターのAIチャットボットにもデジタル技術を取り入れています。
日立と開発した生産計画AIでどれくらい効率化されましたか?
ニチレイフーズと日立製作所が協創した「最適生産・要員計画自動立案システム」により、生産計画と要員計画の立案時間は従来の約10分の1に短縮されました。2020年1月から国内4拠点で順次稼働しており、熟練者以外の従業員でも計画を立てられるようになりました。
ニチレイフーズのAI原料選別技術とは何ですか?
AI原料選別技術は、ニチレイフーズが近畿大学と共同開発した、鶏肉原料から硬骨・羽根・血合いをAIで見つけ出す技術です。2018年2月に発表され、夾雑物の除去率は従来比で約1.5倍、処理スピードは約4倍に向上しました。2019年から国内工場に導入されています。
ニチレイフーズのAI活用は食品ロス削減にもつながっていますか?
はい、つながっています。AIが夾雑物や骨の位置を特定し、その部分だけを除去できるようになったことで、判断に迷う原料を「念のため」廃棄する無駄が減りました。鶏肉の骨検出技術では、従来リサイクルに回していた部位の約7割を唐揚げ用に活用できるようになったと報じられています。
船橋工場に導入されたAI異物検査装置の特徴は何ですか?
2026年8月に船橋工場へ導入された異物検査装置は、ソニーセミコンダクタソリューションズの短波長赤外(SWIR)対応分光カメラとAIを組み合わせたものです。4種類の波長帯の情報を使い、従来のカラーカメラでは見分けにくかった透明プラスチック片などの異物を高精度に検知します。
ニチレイグループの他の会社でもAIは活用されていますか?
はい。製氷事業を展開するニチレイ・アイスでは、日立製作所との協創により、包装氷の生産・輸送・在庫計画の立案業務を自動化するAIシステムを導入しました。2025年10月の発表によると、計画立案にかかる業務時間を約70%削減しています。
まとめ:ニチレイフーズのAI活用は「現場の知恵」をAIで未来につなぐ
ニチレイフーズのAI活用は、近畿大学と開発したAI原料選別技術(2018年)、日立と協創した生産・要員計画の自動立案システム(2020年)、鶏肉の骨検出によるロス削減(2021年)、グループ会社ニチレイ・アイスでの計画業務約70%削減(2025年)、分光カメラとAIによる異物検査装置(2026年)と、約10年にわたって着実に積み重ねられてきました。
その根底にあるのは、熟練者の経験や現場の知恵をAIで形にし、品質・効率・食品ロス削減・働き方の改善を同時に実現するという考え方です。人を置き換えるのではなく、人とAIが協働して食の安全とおいしさを守るニチレイフーズの取り組みは、人手不足に悩む多くの製造業にとって、AI活用の現実的なお手本といえるでしょう。
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