楽天のAI活用は、三木谷浩史会長兼社長が掲げる「AI-nization(エーアイナイゼーション)」戦略のもと、楽天市場・楽天モバイル・Rakuten Viberなど70以上のサービスすべてにAIを組み込む全社的な取り組みです。
AI活用による利益貢献は2025年度に255億円へと達し、2026年度には315億円を見込むなど、「AIで実際に稼ぐ」段階に入っています。
本記事では、自社開発LLM「Rakuten AI 3.0」、エージェント型AI「Rakuten AI」、楽天市場の店舗支援、Rakuten Viberの「AIチャットサマリー」まで、楽天のAI活用の全体像と具体的な成果、他社が学べる教訓を徹底解説します。
楽天のAI活用とは?「AI-nization」戦略の全体像

Nano Banana Proで作成
楽天のAI活用の中核は、あらゆる業務とサービスにAIを浸透させる「AI-nization」という経営方針です。AIを一部門の実験的なツールにとどめず、社内業務の効率化、ユーザー体験の向上、そして出店店舗やパートナー企業の支援まで、楽天エコシステム全体をAIで底上げすることを目指しています。
楽天がAI活用で優位に立てる最大の理由は、膨大なデータ基盤にあります。楽天は1億を超える楽天ID、70以上のサービス、年間3兆を超えるユーザーとのインタラクションデータを保有しています。EC・金融・通信・旅行・スポーツなど多様なサービスをまたいだ行動データを学習・活用できる点は、単一サービスの企業にはない強みです。
AI活用を支える3つのレイヤー
楽天のAI活用は大きく3つのレイヤーで構成されています。第一は自社開発の大規模言語モデル「Rakuten AI 3.0」などの基盤技術、第二はユーザー向けのエージェント型AI「Rakuten AI」、第三は楽天市場の出店店舗やカスタマーサポートなどの業務領域へのAI実装です。基盤モデルからサービス、業務までを一気通貫で自社で手がけることで、AI活用のスピードと独自性を両立しています。
全事業部に「チーフAIオフィサー」を設置
楽天は2026年度から、全事業部に「チーフAIオフィサー(CAI)」を設置する方針を打ち出しています。AI活用の責任者を各事業部に置くことで、全社方針を現場の施策に落とし込み、事業ごとの成果に直結させる狙いです。AI活用を「全社の掛け声」で終わらせず、事業部単位で成果責任を持たせる組織設計は、AI推進に悩む多くの企業にとって参考になるポイントです。
楽天のAI活用による成果——利益貢献は255億円に

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楽天のAI活用がもたらした利益貢献は、2025年度実績で255億円に達しました。当初目標の210億円を大きく上回り、2024年度実績の105億円から約2.4倍に拡大しています。さらに2026年度は315億円の利益貢献を見込んでおり、AI活用が楽天グループの収益を支える柱の一つになりつつあります。
主な成果の内訳は次のとおりです。楽天市場のパーソナライズ検索では年間約255億円規模の流通総額(GMS)創出効果が生まれ、ディスカバリーレコメンデーションの導入により楽天市場アプリの滞在時間は41%増加しました。広告領域では、AIで最適化された「Rakuten Promotion Platform(RPP)」で店舗あたりの流通総額が前年同期比5.1%増加し、「カテゴリワード広告」は2025年12月の単月広告売上が1億5,200万円に達しています。
カスタマーサポートAIエージェント「Raptor」
カスタマーサポート領域では、CSエージェント「Raptor」の活用が進んでいます。問い合わせ対応をAIエージェントが担うことで対応品質を保ちながら工数を大幅に圧縮しており、2026年度には43億円の利益向上が見込まれています。顧客接点の多いBtoCサービスにおいて、カスタマーサポートは人件費が膨らみやすい領域であり、AIによる効率化のインパクトが特に大きい分野です。
自社開発LLM「Rakuten AI 3.0」——国内最大規模の日本語AI

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楽天は自社で大規模言語モデル(LLM)を開発しており、その最新版が2026年3月17日に公開された「Rakuten AI 3.0」です。約7,000億パラメータを持つ国内最大規模の日本語特化型モデルで、日本語の理解力と日本の文化・商習慣への対応力を強化しています。
Rakuten AI 3.0は、複数の専門モデルを組み合わせ、タスクに関係する部分だけを動かす「Mixture of Experts(MoE)」技術を採用しています。これにより、巨大なモデルでありながら計算効率を高めることに成功しました。日本語のベンチマークではOpenAIのGPT-4oを上回る結果を示したと発表されています。
オープンモデルとして商用利用も可能
Rakuten AI 3.0は、経済産業省とNEDOが推進する国産生成AI開発支援プロジェクト「GENIAC」の第3期の支援を受けて開発されました。Apache 2.0ライセンスでHugging Face上に公開されており、外部の企業や開発者も商用利用が可能です。自社サービスで活用するだけでなく、日本のAI開発エコシステム全体に貢献する姿勢を示している点も、楽天のAI活用の特徴です。
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エージェント型AIツール「Rakuten AI」——楽天エコシステムの入り口

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「Rakuten AI」は、楽天が提供するエージェント型AIツールで、ユーザーの質問に答えるだけでなく、楽天の各サービスと連携して買い物や手続きを支援します。2025年7月30日に本格提供が始まり、まず楽天モバイルのコミュニケーションアプリ「Rakuten Link」に搭載されました。
その後、2026年1月には「楽天市場」のスマートフォンアプリにも搭載され、ECでの購買体験に本格的に組み込まれています。ユーザーは「〇〇向けのプレゼントを探して」といった自然な言葉で相談するだけで、AIが条件に合った商品を提案してくれます。
Rakuten AI体験者は再訪頻度が7倍
Rakuten AIの効果は数字にも表れています。楽天によると、Rakuten AIを体験したユーザーは、未体験のユーザーと比べて再訪頻度が7倍になっています。AIが単なる便利機能ではなく、ユーザーを楽天エコシステムに呼び戻し、つなぎとめる「ロイヤリティ向上装置」として機能していることを示すデータです。
楽天市場のAI活用——ユーザーの「買い物体験」を変える
楽天市場では、商品を探す・比べる・選ぶという買い物の各ステップにAIが組み込まれています。膨大な商品数を誇る楽天市場では「欲しい商品にたどり着けない」ことが大きな課題であり、AIによる検索とレコメンドの高度化が流通総額の拡大に直結しています。
パーソナライズ検索とディスカバリーレコメンデーション
楽天市場の検索では、ユーザーの購買履歴や閲覧行動に応じて検索結果を最適化するパーソナライズ検索が導入されています。また、ユーザーが明確に探していない商品との出会いを生む「ディスカバリーレコメンデーション」では、動画を活用した配信機能も加わり、アプリの滞在時間は41%増加しました。
楽天市場AIコンシェルジュと「楽天スーパーSALE」の強化
「楽天市場AIコンシェルジュ」では、最大4つの商品をAIが比較し、違いをわかりやすく整理してくれます。スペックやレビューを一つひとつ見比べる手間が省けるため、購入の意思決定がスムーズになります。2026年6月には、AI活用によって「楽天スーパーSALE」の買い物体験を強化する取り組みも発表されており、大型セール時の商品探しをAIが支援しています。
出店店舗向けのAI活用——5万店の約半数が毎月利用

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楽天市場のAI活用は、ユーザー向けだけでなく出店店舗の運営支援にも広がっています。楽天によると、5万を超える出店店舗の約半数が、毎月何らかの形でAI機能を活用しています。商品ページの作成、問い合わせ対応、データ分析など、店舗運営の負担が大きい業務をAIが肩代わりしています。
問い合わせ対応時間が月67時間から約20時間に
具体的な成果として、ギフト商品を扱う店舗「プチギフトmomo-fuku」の事例が紹介されています。同店舗ではAIの活用により、問い合わせ対応時間が月間67時間から約20時間へと約70%削減されました。さらに、AIによる商品登録の効率化で、登録商品数は1,000点から1万点超へと10倍以上に増加しています。人手が限られる中小規模の店舗ほど、AI活用による効果が大きく表れています。
「データ分析エージェント」の提供開始
2026年4月には、出店店舗向けの「データ分析エージェント」の提供が始まりました。売上や流入のデータをAIが分析し、改善のヒントを提示する機能です。専任のデータ分析担当者を置けない店舗でも、データに基づいた運営判断ができるようになります。楽天は5万店の運営ノウハウという「集合知」をAIに活かすことで、他のECモールとの差別化を図っています。
Rakuten Viberの「AIチャットサマリー」——未読メッセージを瞬時に要約

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楽天グループのメッセージングアプリ「Rakuten Viber」では、OpenAI社の生成AI技術を活用した新機能「AIチャットサマリー」の提供が2024年4月に開始されました。グループチャットにたまった未読メッセージを瞬時に要約し、ユーザーが効率的に内容を把握できるよう支援する機能です。
AIチャットサマリーは、未読メッセージが7件から100件の範囲で要約を行い、重要なポイントを箇条書き形式で提示します。大量のメッセージを一つひとつ遡って読む手間を省き、重要な情報だけをすばやく確認できます。仕事や趣味の活発なグループチャットに参加しているユーザーにとって、情報の見落としを防ぎながら時間を節約できる実用的な機能です。
外部AIと自社AIを使い分ける戦略
Viberの事例は、楽天が自社開発のLLMだけにこだわらず、OpenAIなど外部の先進的なAI技術も柔軟に取り入れていることを示しています。用途や求められる性能に応じて自社AIと外部AIを使い分けることで、開発スピードと品質の両方を確保しています。これは、AIをゼロから開発する余力のない企業にとっても参考になるアプローチです。
参照:「Rakuten Viber」、生成AIを活用してグループチャットの未読メッセージを要約する新機能「AIチャットサマリー」の提供を開始
楽天のAI活用事例まとめ表
楽天の主なAI活用事例と成果を一覧表にまとめました。基盤モデルからユーザー向けサービス、店舗支援、社内業務まで、幅広い領域でAIが活用されていることがわかります。
| 活用領域 | 主な取り組み | 成果・指標 | 時期 |
|---|---|---|---|
| 全社(利益貢献) | AI-nization戦略による全事業へのAI実装 | 255億円(2026年度は315億円見込み) | 2025年度 |
| 基盤モデル | Rakuten AI 3.0(MoE・約7,000億パラメータ) | 日本語ベンチマークでGPT-4o超え、商用利用可 | 2026年3月 |
| エージェント型AI | Rakuten AI(Rakuten Link・楽天市場アプリに搭載) | 体験ユーザーの再訪頻度7倍 | 2025年7月〜 |
| 楽天市場(検索) | パーソナライズ検索 | 年間約255億円規模の流通総額創出効果 | 2025年度 |
| 楽天市場(レコメンド) | ディスカバリーレコメンデーション | アプリ滞在時間41%増 | 2025年度 |
| 広告 | RPP・カテゴリワード広告のAI最適化 | 店舗あたり流通総額5.1%増 | 2025年度 |
| 出店店舗支援 | 問い合わせ対応・商品登録・データ分析エージェント | 約半数の店舗が毎月利用、対応時間約70%削減の事例 | 2026年 |
| カスタマーサポート | CSエージェント「Raptor」 | 43億円の利益向上見込み | 2026年度 |
| メッセージング | Rakuten Viber「AIチャットサマリー」(OpenAI技術) | 未読7〜100件を箇条書きで要約 | 2024年4月 |
楽天のAI活用から学ぶ3つの教訓

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楽天のAI活用から他社が学べるポイントは、成果の数値化、データ資産の活用、外部パートナーへの展開の3つです。企業規模や業種を問わず応用できる考え方として整理します。
教訓①:AI活用の成果を「利益」で測る
楽天はAI活用の成果を、作業時間の削減だけでなく「利益貢献額」という経営指標で測定・公表しています。105億円→255億円→315億円見込みという明確な数字があることで、AI投資の妥当性を社内外に説明しやすくなり、さらなる投資判断にもつながっています。AI活用を推進する際は、最初から「何をもって成果とするか」を経営指標と結びつけて設計することが重要です。
教訓②:自社のデータ資産をAIの武器にする
楽天のAI活用の強さは、1億を超える楽天IDと70以上のサービスから得られる独自データにあります。汎用的なAIツールは他社も同じものを使えますが、自社にしかないデータと組み合わせることで初めて差別化が生まれます。規模の大小にかかわらず、自社が持つ顧客データや業務データを整理し、AIに活かせる状態にしておくことが競争力の源泉になります。
教訓③:自社だけでなく取引先にもAIの恩恵を広げる
楽天は5万を超える出店店舗にAI機能を提供し、店舗の売上や業務効率を高めることでエコシステム全体を成長させています。自社の業務効率化だけでなく、取引先やパートナーの課題をAIで解決する視点を持つと、AI活用は「コスト削減策」から「事業成長のエンジン」へと変わります。
よくある質問(FAQ)
楽天の「AI-nization」とは何ですか?
AI-nization(エーアイナイゼーション)とは、楽天グループが掲げる、あらゆる業務とサービスにAIを浸透させる経営戦略です。社内業務の効率化、ユーザー体験の向上、出店店舗やパートナー企業の支援まで、楽天エコシステム全体をAIで強化することを目指しています。
楽天のAI活用でどれくらいの成果が出ていますか?
楽天のAI活用による利益貢献は、2025年度実績で255億円に達し、当初目標の210億円を上回りました。2024年度の105億円から大きく拡大しており、2026年度は315億円の利益貢献を見込んでいます。
Rakuten AI 3.0とはどのようなAIですか?
Rakuten AI 3.0は、楽天が2026年3月に公開した約7,000億パラメータの日本語特化型大規模言語モデルです。MoE(Mixture of Experts)技術を採用し、日本語ベンチマークでGPT-4oを上回る性能を示しました。Apache 2.0ライセンスで公開されており、商用利用も可能です。
エージェント型AIツール「Rakuten AI」では何ができますか?
Rakuten AIは、自然な言葉での質問に答えるだけでなく、楽天の各サービスと連携して商品探しなどを支援するエージェント型AIツールです。2025年7月に楽天モバイルの「Rakuten Link」へ、2026年1月に「楽天市場」アプリへ搭載されました。体験ユーザーは未体験ユーザーと比べて再訪頻度が7倍になっています。
Rakuten Viberの「AIチャットサマリー」とはどのような機能ですか?
AIチャットサマリーは、OpenAI社の生成AI技術を活用し、グループチャットの未読メッセージを瞬時に要約するRakuten Viberの機能です。2024年4月に提供が開始され、未読メッセージが7件から100件の範囲で、重要なポイントを箇条書き形式で提示します。
楽天市場の出店店舗はAIをどのように活用していますか?
楽天市場では、5万を超える出店店舗の約半数が毎月何らかの形でAI機能を活用しています。問い合わせ対応、商品登録、データ分析などに使われており、問い合わせ対応時間が月67時間から約20時間に削減された店舗の事例もあります。2026年4月には「データ分析エージェント」も提供開始されました。
まとめ:楽天のAI活用は「AIで稼ぐ」フェーズへ
楽天のAI活用は、「AI-nization」戦略のもと、自社開発LLM「Rakuten AI 3.0」、エージェント型AI「Rakuten AI」、楽天市場の検索・レコメンド・店舗支援、Rakuten Viberの「AIチャットサマリー」まで、基盤技術からサービス、業務までを一気通貫でカバーしています。その結果、AI活用による利益貢献は2025年度に255億円へと拡大し、AIが実際の収益を生み出す段階に入っています。
楽天の事例が示しているのは、AI活用の成果を経営指標で測ること、自社独自のデータをAIの武器にすること、そして取引先にまでAIの恩恵を広げることの重要性です。2026年度からは全事業部にチーフAIオフィサーが置かれ、楽天のAI活用はさらに加速していくと考えられます。
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